意匠登録出願における補正手続きの概要と制限について

意匠登録出願を行う際には、所定の様式に従って書類を提出する必要がありますが、場合によっては誤記や不明瞭な記載が生じることがあります。そのような不備を直すための手続きが「補正」です。本記事では、意匠の補正について解説します。

補正の概要

補正とは、出願書類において法律や所定の様式に従っていない誤記や不明瞭な記載などの不備がある場合に、出願人が自発的に、または特許庁からの指摘に基づいて、出願後に書類を訂正または補充する手続きのことです。

最初から完璧な内容の書類を提出できればいいのですが、先願主義(いわゆる早い者勝ち)の制度のため、急いで出願の準備をする場合、完全な書類を提出できない場合もあり得ます。

そのため、法律上、補正の手続きを行うことが認められています。

補正は、出願当初から補正後の状態で提出されたものとして扱われるという効果があります。そのため、出願当初の内容を自由に変更できるとすると、先願主義の趣旨に反し、第三者に不測の不利益を与えることがあります。
そのため、補正には制限が課せられています。

補正の制限

内容的制限

補正は、願書や願書に添付した図面などの要旨を変更するものであってはいけません。補正が要旨を変更するものである場合、補正は却下されてしまいます。意匠の要旨とは何かについては、次の項目で解説します。

時間的制限

意匠登録出願や請求、その他意匠登録に関する手続きを行った者は、事件が審査、審判、または再審に係属している場合に限り、補正を行うことができます。

意匠の要旨

上記の通り、補正が意匠の要旨を変更するものである場合、その補正は却下されます。
では、意匠の要旨とは具体的に何なのでしょうか。

意匠の要旨とは、意匠の属する分野における通常の知識に基づいて願書の記載や願書に添付した図面等から直接的に導き出される具体的な意匠の内容を指します。

つまり、図面等に記載された情報に基づいて、その業界における人なら普通はこういった形状等であると直接的に理解できる内容が意匠の要旨であって、それを変更することは許されないということです。

なかなか理解するのが難しい概念ですので、具体的に要旨を変更すると判断される例を挙げて解説します。

意匠の要旨を変更する補正の例

その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて当然に導き出すことができる同一の範囲を超えて変更するもの

補正によって意匠の同一の範囲が超えて変更されると、先願主義の趣旨に反し、第三者に不測の不利益を与えることになるため、補正は却下されます。

例)願書や図面の記載から、一部が透明であることが導きだせないときに、「一部が透明である」旨の記載を後から補充する補正をする場合。

出願当初不明であった意匠の要旨を明確なものとするもの

出願当初、意匠の要旨が不明確であったものが、補正によって明確なものとなる場合も、先願主義の趣旨に反し、第三者に不測の不利益を与えることになるため、補正は却下されます。

例)灰皿の意匠で、「中央灰落とし部(a)は、凹んでいる」とだけ記載している場合、凹みの形状は以下のように複数考えられます。この場合、断面図を追加して、凹みの形状を明確にする補正は要旨を変更するものと判断されます。

意匠登録を受けようとする範囲を変更する場合

出願当初の願書の記載や願書に添付した図面等に開示していない範囲を意匠登録を受けようとする範囲と変更する場合も、先願主義の趣旨に反し、第三者に不測の不利益を与えることになるため、審査官は補正を却下します。

例)通常、部分意匠出願をする場合、物品の権利範囲は実線で、権利範囲以外は破線で描写します。この、破線を実線に変更したり、逆に実線を破線に修正したりすると、意匠を受けようとする範囲を変更することになるため、このような補正は認められません。

要旨を変更するものとはならない補正

通常の知識に基づいて明らかな誤りや不備を修正する場合

出願時の記載や図面に誤りや不明瞭な記述があったとしても、それが文書作成や図面制作のミスや制約から生じるものであることが総合的に判断して明らかであり、その分野の通常の知識に基づいて正しい記述を直接導くことができる場合、それを不備のない記載に訂正する補正

例)以下のような、フィッシングプライヤーの意匠において、矢印の部分にバネがありますが、背面図だけバネが描かれていません。しかし、背面図以外の図面を総合的に判断すると、背面図にバネが無いのは明らかな不備であって、バネがある状態の形状等を導き出すことができます。そのため、背面図にバネを加える補正をしても、要旨の変更とは判断されません。

意匠の要旨に影響を与えない細かな記述の誤りや不備を修正する場合

出願時の記載や図面に誤りや不明瞭な記述があり、全体的に考慮してどちらが正しいか判断できない場合でも、その誤りや不備が意匠の要旨に影響を与えない細かい部分に関するものと認められる場合、不備のない記載に訂正する補正

補正が却下されてしまった場合の対応

では、補正が認められなかった場合、どのような対応が可能でしょうか。

審判を請求する

補正が却下されたことに対して不服がある場合、補正却下不服審判を請求することができます。却下された補正が、要旨を変更するものではないということを主張できれば、審理の結果、補正が認められる場合があります。
ただし、補正却下の決定の謄本を受け取ってから30日以内に請求する必要があり、また、審判請求費用も掛かります。

補正後の新出願

補正却下の決定の謄本を受け取ってから3か月以内に、補正後の意匠について新たな意匠出願をすることができます。この新出願は、一から出願をし直す場合と異なり、補正をした日が出願日として扱われます。ただし、この新出願をすると、もとの出願は取り下げたものとみなされます。

再度の補正手続き

自ら自発的にした補正ではなく、審査官等からの指摘(拒絶理由通知や補正命令)に対応するために補正手続を行った場合、その補正が却下されても、補正却下の決定の謄本を受け取ってから3か月以内に、再度その指摘に対応する(拒絶理由等を解消する)ためであれば、補正手続をすることができます。

対応せず、元の意匠の登録を目指す

補正が却下された場合、もとの意匠のまま、審査が進められます。そのため、もとの意匠が登録の条件を満たしてれば、もとの意匠のままで登録されます。
補正手続をしたけれど、よく考えたら、もとの意匠が登録になれば特段問題が無い場合は、補正の却下に対応せず、もとの意匠の登録を目指すのも一手です。

ただし、補正手続きは、通常、審査官からの指摘(拒絶理由通知等)に対応するために行います。そのため、もとの意匠は登録が出来ない状態であるため、最終的には登録が認められないケースが多いと考えられます。

意匠出願の準備は慎重に!

以上、意匠出願における補正について、補正が認められる場合と認められない場合について具体例を挙げて解説をしました。
補正が認められる例も挙げましたが、実際に出願を検討する場合は、補正については原則認められないと考えた方がよいでしょう。
補正が認められなかった場合、それまでに費やした費用や労力が無駄になりますし、再度の出願をするまでに、他社に似たデザインの意匠を先に出願されてしまうかもしれないからです。
そのため、意匠出願の際は、慎重に図面や願書の記載の準備を進めましょう。

弊所では、お客様のニーズに応じてスピーディかつ慎重に図面の作成や書類の準備を行い、補正の必要がないよう最大限の注意を払っております。
意匠登録出願を安心してお任せいただけるよう、専門性と丁寧なサポートを提供し続けます。
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