意匠登録が認められないものについて

意匠法では公知な意匠と同一又は類似な意匠は登録できない等の決まりが存在します。

しかし、全く新しい意匠であっても、内容によっては登録が認められない場合があります。

権利を与えることにより他者に害を与えてしまうような意匠が該当します。特許や実用新案、商標の法域においても同じような規定は存在しますが、意匠法においては第5条に規定されています。以下に解説します。

1. 登録できない意匠の概要

意匠法第5条では、工業上の利用可能性、新規性、創作非容易性等の登録要件を満たす意匠であっても、以下の理由により登録が認められないことが規定されています。

(1) 公序良俗に反する意匠(第5条第1号)
(2) 他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠(同第2号)
(3) 物品の機能を確保するために不可欠な形状や建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠、又は画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠(同第3号)

審査官は、これらの不登録事由に該当するか否かを判断し、該当する場合は意匠登録を認めません。

2. 不登録事由の具体的な判断

以下では、各不登録事由について具体的な判断基準を説明します。

(1) 公序良俗に反する意匠

(イ)公の秩序を害するおそれがある意匠

国家や皇室に対する尊厳を害するおそれがある意匠、例えば日本や外国の元首の像や国旗、皇室の菊花紋章や外国の王室の紋章(類似するものも含む)等は、公の秩序を害するおそれがあると判断されます。

なお、「渋沢栄一」「津田梅子」「北里柴三郎」の肖像画を用いた新紙幣は、「独立行政法人 国立印刷局」を権利者として意匠登録されています。

・意匠登録1657689号

・意匠登録1657690号

・意匠登録1657691号

(ロ)善良の風俗を害するおそれがある意匠

審査官は、健全な心身を有する人の道徳観を不当に刺激し、羞恥や嫌悪の念を起こさせる意匠、例えば、わいせつ物を表した意匠等については、善良の風俗を害するおそれがあると判断します。

(2)他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠

他人の周知・著名な商標や、これと類似する標章を表した意匠は、その物品等がそれらの人や団体の業務に関して作られ、または販売されるものと混同されるおそれがあるため、他人の業務に係る物品等と混同を生じるおそれがある意匠と判断されます。

(3)物品の機能を確保するために不可欠な形状や建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠、又は画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠

意匠法では、物品の機能を確保するために不可欠な形状や、建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠、または画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠は、本来、特許法や実用新案法によって保護されるべき技術的思想の創作であり、意匠権として排他的独占権を付与するに適さないものとされています。

審査官は、以下の類型に該当する場合に、ある物品の機能を確保するために不可欠な形状や建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠と判断します。

①物品の機能や建築物の用途により必然的に定まる形状のみからなる意匠

物品の機能を確保するためや建築物の用途により必然的に定まる形状(必然的形状)のみからなる意匠の場合、審査官は意匠法第5条第3号に規定する物品の機能を確保するために不可欠な形状や建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠に該当すると判断します。審査官は、出願された意匠が必然的形状のみからなる意匠に該当するか否かについて、意匠の構成要素である模様、色彩の有無を問わず、物品の技術的機能や建築物の用途を体現している形状のみに着目して判断することとします。その際、特に以下の点を考慮します。

(イ)その物品の機能や建築物の用途を確保できる代替可能な形状が他に存在するか否か。
(ロ)必然的形状等以外の意匠評価上考慮すべき形状を含むか否か。

②物品の互換性確保等のためや建築物の用途等に照らして標準化された規格により定まる形状(準必然的形状)からなる意匠

審査官は、物品等の互換性の確保(技術的機能の確保を含む)等のため、または建築物の用途等に照らして、形状や寸法等の各要素が規格化または標準化されているものであって、規格化または標準化等がなされた形状や寸法等により正確に再製せざるを得ない形状からなる意匠についても、➀の必然的形状に準じて取り扱います。

審査官は、例えば以下の(イ)または(ロ)に該当するものは、物品等の互換性確保等のために標準化された規格に該当すると判断します。

(イ)公的な標準

一般財団法人日本規格協会が策定するJIS規格(日本産業規格)、ISO(国際標準化機構)が策定するISO規格等の、公的な標準化機関により策定された標準規格。

(ロ)事実上の標準(デファクト・スタンダード(デザイン))

公的な規格とはなっていないが、その規格が当該物品等の分野において業界標準として認知されており、当該標準規格に基づく製品がその物品等の市場を事実上支配しているものであって、規格としての名称、番号等によりその標準となっている形状、寸法等の詳細を特定することができるものをいう。

ただし、意匠法第5条第3号の規定の適用は、形状等に基づく機能の発揮が主たる使用の目的となっている物品等に限ることとします。したがって、例えば、事務用紙(紙の原紙寸法 JIS P 0202)、日用紙(封筒 JIS S 5502)等は、公的な標準規格あるいは事実上の標準規格により定まる形状を有していても、意匠法第5条第3号の規定は適用されません。

③画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠

審査官は、画像の用途等に照らして必然的に定まる表示のみからなる意匠に加え、規格化または標準化等がなされた表示により正確に作成せざるを得ない表示のみからなる意匠についても、意匠法第5条第3号に規定する画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠に該当すると判断します。

3. 不登録事由に該当するか否かの判断に係る審査の進め方

審査官が出願された意匠が不登録事由に該当するとの心証を得た場合、拒絶理由通知を送付します。これに対して出願人は、手続補正書を提出して補正を行ったり、意見書により反論や釈明を行うことができます。補正や反論、釈明によって、審査官が不登録事由に該当するものであることが明らかであるとの心証を得られない状態になった場合、拒絶理由は解消されます。

審査官は、心証が変わらない場合、第5条の規定により意匠登録を受けることができない旨の拒絶理由に基づき、拒絶査定を行います。

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