意匠権は、特許権や商標権などの他の知的財産同様に、自己の意匠について独占的に実施することが出来る強力な権利です。
他の企業が、あなたの登録意匠を不法に実施している場合、意匠権を行使して、差止めや損害賠償の請求が可能です。
逆にいうと、他社の登録意匠を無断で実施すれば、その権利の侵害を構成する可能性があり、場合によっては、製品の廃棄を余儀なくされたり、多額の損害を賠償する責任を負ったりする可能性もあります。

そのため、新たなデザインの製品を販売等する時には、他社の意匠権を侵害しないかどうかについて、事前に検討し、場合によっては調査を行う必要があります。

このページでは、実際に意匠権侵害が争われた比較的近時の判例を取り上げて、意匠権侵害の判断においてポイントなる事項について解説します。

侵害に関係する意匠法の規定などの情報については以下のサイトもご参照ください(差止や損害賠償の請求など、救済手段の概要についても掲載しています)。
・「意匠権侵害の概要と救済手段

侵害事件における類否判断のポイント

意匠権は、登録意匠と同一・類似の意匠を業として独占して実施することが出来る権利です。
意匠が同一・類似するかどうかは、物品が同一・類似かどうか、意匠(形状等)が同一・類似どうかで判断されます。

物品の類否においては、物品の用途・機能が同一又は類似の場合は物品が同一・類似と判断されます。※物品が非類似の場合は、意匠は非類似となり、直接侵害が成立しません。

意匠に係る物品が類似する場合、次に、意匠(形状等)についての類否が検討されます。

侵害事件において、意匠(形状等)の類否判断においては、両意匠の構成や、類否判断のポイントとなる要部などの認定がおこなわれ、それらを比較の上で、両者の美感が共通するかどうかで類否が判断されます。

意匠の要部とは、その意匠のうち需要者※の最も注意を引きやすい部分のことです。

※類否判断の主体は需要者と意匠法で定められています。(意匠法24条2項)この需要者には、その物品を取り扱う業者等の取引者も含まれます。

侵害事件においては、意匠の要部の認定が行われ、通常、要部が共通していれば類似、相違していれば非類似の意匠と判断されます。

どのように要部が認定され、その結果どのような判断がされているのか、具体的な事例をご紹介します。

物品の性質、用途、使用態様
<令和2年(ネ)第1492号 令和3年2月18日判決>

原告・被控訴人意匠
(登録第1409214号)
被告・控訴人意匠
物品 データ記憶機 データ記憶機のケース
意匠

この事例では、以下が原告意匠の要部であると認定され、要部が共通することから類似と判断され、侵害が認められています。

 原告意匠の要部
  • 本体と溝とプレートから構成される点
  • 上部と正面が全てプレートで覆われていて、溝が本体とプレートの間にある点
  • プレートは正面上部が円弧上に曲がっているが、平面側は直角である点

判断のポイント

意匠の要部の認定において、物品の性質、用途、使用態様によって、需要者に観察されやすい部分か否かは大きなポイントとなります。すなわち、対象の製品が使用される際に、通常どのような状況や状態で需要者に利用される可能性があって、その状態において、どの部分がどの程度見えやすい/見えにくいかが検討されます。

物品が使用される状態において見えやすい部分は、要部と認定され易くなります。逆に、例えば冷蔵庫などの家電製品の場合、前面のドアや取っ手の形状は、見えやすい部分ですが、背面や底面は、通常の使用状態で見えることは少ないため、要部となり難いと考えられます。

この事例では、物品であるデータ記憶機はテレビやパソコンの傍にケーブルで接続して設置される商品であることから、背面と底面が視認される機会は需要者にとって必ずしも多くないため、正面側から視認できる部分である上記の点が要部として認定されています。

物品の類否

なお、この事例では意匠に係る物品の類否についても争点となりました。
裁判所は、原告登録意匠の物品は「データ記憶機」であるのに対して、被告が製造・譲渡していたのは「データ記憶機のケース」であるから、同一又は類似の物品でなく、直接侵害は成立しないと判断しました。
ただし、この「ケース」は、データ記憶機の製造にのみ用いられるものであることから、間接侵害が成立すると判断されています。(意匠法38条1号)

公知意匠にない新規な創作部分の存否(1)※非類似の例
<平成21年(ワ)第2726号 平成21年11月5日判決>

原告意匠
(登録第1339016号)
被告意匠
物品 長靴 長靴
意匠

この事例では、以下が原告意匠の要部であると認定され、要部の特徴が相違することから非類似と判断され、侵害が認められませんでした。

 原告意匠の要部
  • 絞りが5つである点
  • 絞りと絞りの間に多数のふくらみがある点
  • 光沢がある点

判断のポイント

要部の認定においては、公知意匠にはない新規な創作部分であるかどうかも参酌(参考として考慮)されます。すなわち、意匠の形状等が、先行する意匠や公知の意匠にごく普通に見られる形状等である場合、特徴的な形状等とは言えず、要部とならないと判断される傾向にあります。

この事例では、上記の要部が公知意匠にはない新規な構成態様であると判断され、被告意匠とは要部が異なることから非類似の意匠と判断されました。
一方、上記の要部以外の、例えば、複数の絞りが設けられているという点や、踵の形状等の共通点は、公知意匠にみられるありふれた形態であり、要部とはならないと判断されています。

公知意匠にない新規な創作部分の存否(2)
<平成29年(ワ)第8272号 令和元年8月29日判決>

原告意匠
(登録第1551624号)
被告意匠
物品 そうめん流し器 そうめん流し器
意匠

この事例では、以下が原告意匠の要部であると認定され、要部の特徴が共通することから類似と判断され、侵害が認められています。

 原告意匠の要部
  • レール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成る形状

判断のポイント

上述のように、先行する意匠や公知の意匠にごく普通に見られる形状等である場合、特徴的な形状等とは言えず、要部とならないと判断される傾向にあります。

この裁判でも、被告は、レール部とトレイ部は、それぞれ公知意匠に同様の形状が存在するため要部になり得ず、吐水口部分の形状が要部であり、両意匠は非類似であると主張していました。

しかしながら、裁判所は、レール部とトレイ部のいずれも備える組合せが新規な特徴であり、また、需要者はそうめんの流れ方や取りやすさに関心をもつため、それに関連する「レール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成る形状」が要部であると判断しました。

このように、意匠が複数の要素からなる場合、各要素が公知意匠にみられるものであっても、全体としての組合せが新規な特徴である場合は、要部と認定される場合があります。

公知意匠にない新規な創作部分の存否(3)
<平成28年(ワ)第12791号 平成30年11月6日判決>

原告意匠
(登録第1224615号)
被告意匠(イ)~(ハ)
物品 検査用照明器具 検査用照明器具
意匠

この事例では、以下が原告意匠の要部であると認定されました。要部の特徴が共通しない場合でも、その差異がわずかであることから類似と判断され、侵害が認められています。

 原告意匠の要部(一部抜粋)
  • 薄い円柱状の中間フィン2枚及び後端フィン1枚が設けられている。
  • 後端フィンは,中間フィンよりも厚くなっている。
  • 支持軸体の径は,フィンの径の5分の1程度である。
  • フィン相互の間隔は,フィンの径の8分の1程度である。

判断のポイント

裁判所は、(原告意匠と被告意匠の間で特徴が共通していない)フィンの枚数等の特徴が要部であると認定しましたが、公知意匠の存在を理由に、フィンの枚数、間隔及び厚みの変更や、(中略)支持軸体の径を変更したりすることは、ありふれた手法というべきであるから、両意匠の差異はわずかであって、格別異なる美感を生じさせるとまでは認められないと判断しました。

公知意匠においてみられるありふれた特徴であっても、常に要部から除かれる訳ではありませんが、この事例のように、要部と認定された差異の程度がわずかであれば、その他の共通点・差異点を考慮した総合的な類否の判断にその要部が与える影響は少ないものと考えられます。

まずはご相談ください

以上、意匠権の侵害事例を取り上げて、意匠の要部の認定についてご説明しました。
上述の通り、意匠の要部の認定においては、物品の性質、用途、使用態様や、公知意匠にない新規な創作部分の存否が検討されます。

意匠の類否の判断においては、専門的な観点から慎重な判断が求められます。

他社が自社の模倣品を販売している場合や、逆に自社製品が他社の意匠権を侵害していないか不安な場合、突然意匠権侵害の警告書を受け取った場合など、まずは弊所へご相談ください。
侵害が成立し得るかどうかや、どういった手段を取り得るか等の対策について、専門家の立場からアドバイスさせていただきます。

また、他社に製品のデザインを模倣されても、しっかりと権利行使をし、自社製品を保護できるよう、効果的・戦略的な意匠出願方法等についてもご案内可能でございます。

費用の御見積りは無料です。「お問い合わせフォーム」などからお気軽にお問い合わせください。

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