意匠の先願制度

意匠制度は、新たな意匠(デザイン)の創作を保護し、その独占権を一定期間確保するための制度です。本記事では、意匠の先願制度に関する法律やその適用について詳しく解説します。

意匠制度と先願制度

意匠制度は、新たな意匠の創作に対して一定期間独占権を付与するものであり、意匠法上1つの創作に対して二以上の意匠権の発生を認めるべきではありません。そのため、意匠法第9条は、同一または類似の意匠について二以上の意匠登録出願があった場合、最も早い出願人のみが意匠登録を受けることができる旨を規定しています(先願主義)。

本条により、同一または類似の意匠について異なる日に二以上の意匠登録出願があった場合、最も早い出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができます(同条第1項)。同一または類似の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があった場合は、出願人同士の協議によって決定された一の出願人のみが意匠登録を受けることができます(同条第2項前段)。協議が成立しなかったり、協議ができない場合は、どの出願人もその意匠について意匠登録を受けることができません(同条第2項後段)。

特許庁長官は、同一または類似の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があった場合、出願人に対して指定された期間内に協議を行い、その結果を届け出るよう命じます(同条第4項)。特許庁長官は、協議の結果の届出がない場合、協議が成立しなかったものとみなすことができます(同条第5項)。

先願の要件についての判断

先願の要件についての判断は、審査官が意匠法第9条が定める先願の規定の適用を行う際に重要です。判断に係る基本的な考え方は以下の通りです。

審査官は、審査の対象となる意匠登録出願(以下、「本願」という。)と他の出願が以下の条件をすべて満たす場合、意匠法第9条が定める先願の規定を適用します。

1. 他の出願が以下の(i)および(ii)の両方に該当すること。
  (i) 他の出願が本願に対して先願または同日の出願であること。
  (ii) 他の出願が先願として取り扱われる意匠登録出願であること。
2. 本願に係る意匠と他の出願に係る意匠が同一または類似であること。

先願として取り扱われる意匠登録出願の類型

以下のいずれかに該当する意匠登録出願は、意匠法第9条第1項の規定の適用について先願の意匠登録出願として取り扱われます。

1. 設定の登録がなされた意匠登録出願。
2. 同日に出願された同一または類似の意匠について、意匠法第9条第2項の規定に基づく協議が成立せず、また協議ができない場合、拒絶をすべき旨の査定または審決が確定した意匠登録出願。

先願または同日の出願として取り扱われない意匠登録出願の類型

以下の1から4のいずれかに該当する意匠登録出願は、意匠法第9条第1項および第2項の規定の適用について初めからなかったものとみなされます。

1. 放棄された意匠登録出願。
2. 取り下げられた意匠登録出願。
3. 却下された意匠登録出願。
4. 拒絶すべき旨の査定または審決が確定した意匠登録出願。
  ただし、【先願として取り扱われる意匠登録出願の類型】の2(上述)の意匠登録出願を除く。

異なる日に複数の意匠出願があった場合の取り扱い

「同一の意匠の取り扱い」

異なる日に同一の意匠について複数の登録出願があった場合、最初の出願人のみが意匠登録を受けられます。後の出願人は、意匠法第9条第1項により拒絶されます。

「類似の意匠の取り扱い」

他人による出願の場合: 最初の出願人のみが意匠登録を受けられます。後の出願人は、意匠法第9条第1項により拒絶されます。
同一出願人による出願の場合: 最初の出願が登録され、後の出願は関連意匠として登録される場合がありますので、関連意匠制度の利用をご検討ください。ただし、後の出願が関連意匠の要件を満たさない場合は、意匠法第9条第1項により拒絶されます。

同日に複数の意匠出願があった場合の取り扱い

「同一の意匠の取り扱い」

同一の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があった場合、意匠法第9条第2項前段の規定に該当し、協議指令の対象となります。協議の結果、一の出願人のみが意匠登録を受けることができます。
指定期間内に協議の結果の届出がなかった場合、意匠法第9条第2項後段により、協議に関する意匠登録出願はいずれも拒絶されることになります。

「類似の意匠の取り扱い」

他人による意匠登録出願の場合:
類似の意匠について同日に他人による二以上の意匠登録出願があった場合、意匠法第9条第2項前段の規定に該当し、協議指令の対象となります。協議の結果、一の出願人のみが意匠登録を受けることができます。
指定期間内に協議の結果の届出がなかった場合、意匠法第9条第2項後段により、協議に関する意匠登録出願はいずれも拒絶されることになります。

同一出願人による意匠登録出願の場合:
類似の意匠について同日に同一出願人による二以上の意匠登録出願があった場合、意匠法第9条第2項前段の規定に該当し、協議指令の対象となります。協議により定めた一の出願人以外は原則として意匠登録を受けることができませんが、出願人が同一の場合に協議指令を受けたときは、関連意匠としての要件を満たしている場合は、関連意匠として意匠登録を受けることができます。
なお、指定期間内に協議の結果の届出がなかった場合、意匠法第9条第2項後段により、協議に関する意匠登録出願はいずれも拒絶されることになります。

[参考] 全体意匠と部分意匠であっても類似の意匠と判断される場合があります。(2019年意匠審査基準一部改訂)

まとめ

本記事では、意匠の先願制度に関する法律やその適用について解説しました。意匠法第9条に基づく先願制度は、同一または類似の意匠について二以上の意匠登録出願がある場合に適用され、最も早い出願人のみが意匠登録を受けることができます。

審査官は、審査の対象となる意匠登録出願と他の出願が特定の条件を満たす場合に、先願の規定を適用します。また、先願として取り扱われる意匠登録出願の類型や、先願または同日の出願として取り扱われない意匠登録出願の類型も紹介しました。

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