意匠の活用方法について

意匠の使い方(活用方法)について

意匠法は、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」(意匠法第1条)と規定しています。
意匠の創作は、物品、建築物及び画像(以下、「物品等」といいます)のより美しい外観、より使い勝手のよい外観を探求する行為です。しかし、物品等の外観は目で見て理解することができ、他者の創作物であっても容易に模倣することができるため、オリジナルを模倣した意匠が流布すると、健全な産業の発達に支障が生じることがあります。
そこで、意匠制度は、新しく創作した意匠を創作者の財産として保護し、その利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としています。

本記事では、意匠制度(意匠権)の活用方法について紹介すると共に、ニーズに応じた意匠出願の方法及び意匠の国際登録制度の活用についても解説します。

意匠法上の意匠とは(意匠権の保護対象)

携帯情報端末、包装用瓶から電気洗濯機、指輪、椅子、乗用自動車、即席麺に至るまで、あらゆる製品のデザインが「意匠」として意匠権で保護されています。

この意匠権の保護対象となる「意匠」について、意匠法第2条第1項は、

  この法律で「意匠」とは、

  • 物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)、
  • 建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等
  • 又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。<略>)

  であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの
  をいう。

と定義しています。

平成10年の一部改正において、「物品の部分」が意匠の構成要素として新たに加えられ、部分意匠(物品の部分の形状等)が意匠登録の対象となりました。

また、令和1年の意匠法の一部改正において、保護対象が拡充され、物品に記録・表示されていない画像や建築物の外観・内装のデザインが新たに保護対象となりました。

新しく保護対象となった意匠の詳細のついては以下の記事をご参照ください。
・「画像デザインの活用」
・「建築物・内装デザインの保護

意匠制度(意匠権)の活用方法

ビジネスにおいて、製品やサービス、そして企業の価値を高めるためにデザインを戦略的に活用することの重要性については、昨今、多くの方が認識していますが、多くの時間、コスト、心血を注いで生み出したデザインを知的財産権で戦略的に保護し、活用する視点を持つこともビジネスを成功に導く上では不可欠です。

意匠権に期待される代表的な効果としては、真っ先に、他者にマネされないようにする効果やニセモノを排除する効果が挙げられます。
実際には、このような効果だけではなく、様々な立場の意匠制度ユーザーが自身のビジネスなどの目的に応じ、意匠権の多様な効果に期待した意匠制度の活用を試みています。

デザイン保護の中心的な役割を果たす意匠制度の主な活用方法として以下が挙げられます。

①他社へのけん制
・意匠公報の発行
・登録意匠の周知

②模倣品・類似品の排除
・警告
・税関での輸入差止め
・裁判所での紛争処理

③外国での審査・紛争時の優位性獲得
・無審査国での紛争処理
・審査遅延官庁へのアピール

④信頼性の向上
・オリジナリティの証明
・デザイン力のアピール

⑤ビジネス機会の拡大
・ライセンス機会の創出
・投資家、金融機関等へのアピール

⑥創作意欲の向上
・真の創作者の証明
・創作者への社内報奨

⑦技術保護の補完
・特許性の有無によらない形態の保護
・部品形態の保護
・特許権を取得するまでの保護
・特許権が消滅した後の保護

⑧ブランドの形成
・継続的に使用する形態の保護
・製品間で共通する形態の保護
・プロモーションアイテムの保護
・立体商標を取得するまでの保護

意匠登録のメリット・デメリットについては以下のページもご参照ください。
・「意匠登録のメリットとは

ニーズに応じた意匠出願の方法

意匠制度には、物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠、飲食用のナイフ、フォーク及びスプーンのようなセットものの意匠を保護する組物、複数の物品や建築物、画像から構成される内装のデザインを保護する内装の意匠、一貫したデザインコンセプトに基づいた製品等のデザインを保護する関連意匠など、ニーズに応じた様々な意匠出願の方法があります。
また、事業戦略上秘密にしておきたい意匠については、図面などの権利内容を一定期間秘密にできる秘密意匠制度があります。

物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠(意匠法第2条第1項括弧書き)

従来、「物品」とは市場で流通する有体物であるとされていたことから、昭和34年の現行法制定時においては独立して取引の対象となり得ない物品の部分は、意匠法上の「物品」ではなく、物品の部分に係る意匠は保護対象とはなっていませんでした。しかし、独創的で特徴ある部分を取り入れつつ意匠全体で侵害を避ける巧妙な模倣が増加し、十分にその投資を保護することができないものとなっていたことから、平成10年の意匠法の一部改正により、物品の部分に係る意匠も保護の対象となりました。

物品等の部分について意匠登録は、物品等の全体から物理的に切り離せない部分であって独創的で特徴ある部分を第三者に模倣されることを防止したい場合に有効です(物理的に切り離せて、市場において独立して取引の対象となるものであれば、部品や付属品の全体意匠として登録が可能です。)。

また、例えば、全体はまだ具体的な創作が完成していないが、一部分についてはすでに具体的に創作が完成しているときに、その一部分を「意匠登録を受けようとする部分」として出願し、権利化する場合などにも活用できます。

なお、物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠においては、「意匠登録を受けようとする部分」が物品等全体の中のどこの部分であるかが分かるように表現する必要があります。その方法としては、「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き、「その他の部分」を破線で描く等により、意匠登録を受けようとする部分を特定します。

組物の意匠(意匠法第8条)

社会通念上、同時に使用される二以上の物品等であって、意匠法施行規則別表で定められた43品目(一組の飲食用具セット、一組の家具セットなど)のうち、任意の物品等に係る意匠で構成され、組物全体として統一感があるときは、組物の意匠として意匠登録を受けることができます。
なお、組物の意匠の部分について、意匠登録を受けることもできます。

内装の意匠(意匠法第8条の2)

複数の物品(机、いす等)や建築物(壁や床等の装飾)、画像から構成される内装のデザインについても、内装全体として統一感があるときは、内装の意匠として意匠登録を受けることができます。
なお、内装の意匠の部分について、意匠登録を受けることもできます。

関連意匠(意匠法第10条)

意匠制度は、意匠の創作に対して一定期間の独占権を付与するものであるため、一の創作に対して二以上の重複した権利は認められません(意匠法第9条)。しかしながら、企業には、一貫したデザインコンセプトに基づいて、製品等のデザインを長期的に進化させ、製品の付加価値を高めることによって、自社のブランド構築を行う取組が広がっています。

関連意匠制度は、出願人が同じであることを条件として、類似する複数の意匠を、所定の要件を満たした上で関連意匠として出願した場合には、各々の意匠について意匠登録を受けることができる制度であり、関連意匠として登録された意匠は、各々独自に権利を行使することが可能です。

令和2年4月1日から、関連意匠の出願可能期間は、本意匠の出願日から10年が経過する日前までに延長されました。また、関連意匠を新たな本意匠として、関連意匠にのみ類似する意匠も連鎖的に登録を受けることが可能となりました。ただし、そのように連鎖する関連意匠の出願可能期間は、最初の本意匠の出願日から10年が経過する日前までとなります。

関連意匠制度の詳細については以下のページもご参照ください。
・「関連意匠制度の活用

秘密意匠(意匠法第14条)

秘密意匠制度は、設定登録の日から最長3年を限度として登録意匠の内容を公表せず秘密にすることができるものです。
通常、出願意匠が登録されると意匠公報によりその意匠が公開されますが、秘密意匠制度を利用すると、意匠の内容を表す図面のほか、意匠に係る物品や意匠分類などの情報は意匠公報に掲載されません。出願人が指定した秘密期間が経過すると、改めて願書や図面などの記載内容を掲載した意匠公報が発行されます。

意匠は一度開示されると一目で内容が分かり、模倣されやすいという特徴があるため、秘密意匠制度を利用して一定期間内は他者から自己の意匠を見られない状態にしておくことで、製品開発のスケジュールと新製品発表のタイミングを調整するなど、事業活動を有利に運ぶことが可能となります。

なお、意匠を秘密にするための手続は、意匠登録出願時だけでなく、意匠登録の第1年分の登録料の納付時に行うこともできます。また、秘密請求の期間は、最長3年の範囲で延長又は短縮の請求をすることができます。

また、秘密意匠に係る意匠権も侵害に対して民事的、刑事的救済を受け得ますが、以下のような制約を受けます。

①差止請求権を行使する際には、公報掲載事項を記載し、特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告を行うことが前提条件となる(意匠法37条3項)。
②損害賠償の請求(民法709条)に際しては、過失の推定がされないため、原則通り、権利者が侵害者の過失を立証しなければならない。

意匠の国際登録制度の活用

経済のグローバル化に伴い、日本企業によるビジネスの海外展開や製造拠点の海外移転が増加し、外国において模倣被害に遭うケースもより多くなってきています。そのようなリスクを軽減するためには、各国で意匠権を取得し、製品デザインを保護しておくことが重要です。

一方、知的財産権の効力は、属地主義の原則により、権利を取得した国の領域内のみに限定され、外国には及びません。海外において知的財産を保護する場合、原則としてその国ごとに権利取得の手続をすることが必要になります。

ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく意匠の国際登録制度を活用すれば、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局への1つの言語・支払い手続で、複数国(締約国)に同時に出願した場合と同様の効果を得られるため、各国(ハーグ協定のジュネーブ改正協定の締約国)にそれぞれ出願するよりも簡便に意匠権を取得することができ、模倣品の排除もより経済的・効率的に行うことが可能となります。国内外で模倣品を適切に排除し、安定的にビジネス展開をする環境を整備することにより、企業活動の幅やビジネスチャンスも広がります。

<意匠の国際登録制度の主なメリット>
①出願手続の簡素化(各国ごとの出願書類が作成不要、複数意匠一括出願)
②経費の削減(代理人の選任費用や翻訳費用が不要)
③権利管理の簡便化(国際登録の権利はWIPOにおいて一元管理される)
④迅速な審査(登録の可否がわかる時期が明確)

なお、意匠の国際登録制度は一括の手続で意匠登録を受けることが可能となる一方、権利を取得したい国数が少ない場合は費用が低減されない場合もあることに注意が必要です。

意匠の国際登録制度については以下のページもご参照ください。
・「ハーグ協定による国際意匠出願について

意匠登録をご検討中の方は、費用のお見積りを含め、当所までお気軽にご相談下さい。
当所では、特徴的なデザインの保護、及び、大切な商品のブランド力と価値の保護について、確かなお手伝いをさせていただきます。

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