意匠登録出願の分割について

意匠登録出願では、二以上の意匠を含む意匠登録出願の一部を分割して、別の意匠登録出願とすることができます。

本記事では、分割出願の制度の概要、分割出願の要件、分割出願の手続きで必要な知識等をご紹介します。

1.意匠登録出願の分割についての意匠法の規定

意匠法では、分割出願について、以下のとおりに定められています。

意匠法第10条の2
1 意匠登録出願人は、意匠登録出願が審査、審判又は再審に継続している場合に限り、二以上の意匠を包含する意匠登録出願の一部を一又は二以上の新たな意匠登録出願とすることができる。
2 意匠登録出願の分割があったときは、新たな意匠登録出願は、もとの意匠登録出願の時にしたものとみなす。

意匠法では、「一意匠一出願の原則」が定められており(第7条)、この原則に反して、誤って二以上の意匠を一出願に包含させたまま意匠登録出願をした場合に、出願人の救済を図ることを目的して設けられた制度です。

二以上の意匠を一出願に包含させた意匠登録出願には、意匠法の規定により拒絶理由通知が出されます。その場合、分割出願をすることにより、それぞれの意匠について権利を取得することができます。

2.意匠登録出願の分割に必要な要件

意匠登録出願の分割出願を行う場合には、以下の要件を満たす必要があります。

  • 意匠登録出願が審査、審判又は再審に係属していること
    意匠出願の登録査定を受領した後は、分割出願を行うことができません。

  • 意匠登録出願人が同一であること
    分割による新たな意匠登録出願の出願人は、もとの意匠登録出願の出願人と同一でなければなりません。

  • 二以上の意匠が包含されている意匠登録出願についての分割であること
    願書の「意匠に係る物品」の欄に、二以上の物品を記載した場合、あるいは、二以上の形状等を表している場合などが該当します。
    また、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が包含されており、形状等の一体性あるいは機能的な一体性が認められない場合も、「二以上の意匠が包含されている意匠登録出願」とみなされます。

  • 分割による新たな意匠登録出願に係る意匠は、もとの意匠登録出願に包含されていた二以上の意匠のうちいずれかと同一の意匠であること

国際意匠登録出願についても、分割することができます。

3.認められない分割の手続

一意匠一出願

・意匠ごとに出願されており、意匠法第7条に規定する「一意匠一出願」の要件を満たしている意匠登録出願を、その物品を構成する部品ごとに分割して出願する場合

⇒ 意匠法第7条の「一意匠一出願」の規定を満たす出願を分割することは原則として認められません。

※参考図で示された意匠は「出願の分割が認められない」と判断された判例があります。

  • 「ピアノ補助ペダル事件」(知財高裁平成18年(行ケ)第10136号)
    もとの出願について、意匠登録を受けようとする意匠に係る物品が「ピアノ補助ペダル」であり、参考図として、アタッチメントを取り付けた状態のピアノ補助ペダルを記載していました。
    その後、そのアタッチメントを取り付けた状態のピアノ補助ペダルに係る意匠について、分割出願をしたところ、「2以上の意匠を包含する意匠登録出願の一部とはいえず、出願の分割は認められない」と判断されました。

組物の意匠

・意匠法第8条に規定する「組物の意匠」の要件を満たしている意匠登録出願を、構成物品等ごとに分割して出願する場合

⇒ 組物の意匠が、全体として統一感がないと判断された場合など、8条の要件を満たさない場合は、構成物品を分割出願することが可能です。

その他の意匠

・意匠法第8条の2に規定する「内装の意匠」の要件を満たしている意匠登録出願を、構成物品等ごとに分割して出願する場合

・分割による新たな意匠登録出願に表された意匠が、もとの意匠登録出願に含まれていた意匠から要旨を変更するものである場合

・一意匠と認められる全体意匠、あるいは一意匠と取り扱われる物品等の部分について、新たな部分について分割して出願する場合

⇒ 上記の分割の要件を満たさない新たな意匠登録出願について、新たな意匠登録出願は、もとの意匠登録出願の時にしたものとはみなさず、分割のあった時に出願したものとして取り扱うことと規定されています。

4.特許庁への手続き方法の実務の説明

分割出願の願書には、通常の願書の記載に加えて、以下の欄を追加し、必要事項を記載します。

【特記事項】 : 意匠法第10条の2第1項の規定による意匠登録出願
【原出願の表示】 : もとの出願の出願番号と出願日を記載します。

特許庁への納付金額は、通常の意匠登録出願と同じ16,000円です。

5.分割出願を行った場合のもとの出願への対応について

意匠登録出願を分割する場合、もとの出願について、もとの出願に包含されている二以上の意匠のうち分割に係る意匠を削除する補正を行う必要があります。この補正は、分割出願と同時に行います。
(ただし、補正を分割と同時にしなかった場合は、審査、審判又は再審に係属中であれば、この補正は可能です。)

もとの意匠登録出願に補正がなされない場合、もとの意匠登録出願は多意匠を包含する出願として拒絶されます。

※二以上の意匠を包含する意匠登録出願について、分割出願を行わず、一つの意匠だけ残して他の意匠を削除する補正は、要旨変更とはならず、認められます。

分割出願の注意点

令和3年4月施行の「複数意匠一括出願」の導入により、複数の意匠登録出願を一の願書により一括して行う手続きが可能となりました。

しかし、分割出願を「複数意匠一括出願」の複数の意匠登録出願に含めることはできませんので、ご注意ください。

外国での意匠登録出願についての分割出願の扱いについて

分割出願の扱いは国によって異なります。
一例として、米国や中国では、複数意匠出願が可能ですが、もとの出願に2以上の意匠が含まれる場合、その内の1または2以上の意匠について分割して出願をすることができます。

一方で、意匠の国際出願(ハーグ出願)では、意匠の単一性の要件が満たされていないにもかかわらず、意匠の出願が同一の国際出願で行われた場合、国際出願の分割手続を行い、意匠の単一性の要件が満たされない限り、当該指定締約国での保護が拒絶されるような扱いをする国もありますので、注意が必要です。
※エストニア、キルギス、ルーマニア、シンガポール、シリアのいずれかを指定する場合

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