一意匠一出願制度について

意匠ごとの出願

意匠法第7条は、意匠登録出願は意匠ごとにしなければならない旨を規定しています。
具体的な手続は意匠法施行規則(第7条)に委ねており、同規則においては、複数の意匠に係る出願を一つの願書で行う手続を認めつつ(後述参照)、それぞれの出願には一つの意匠のみを含めること(一意匠一出願)を定めています。
一意匠一出願の要件は、一つの意匠について意匠権を一つ発生させることにより、権利内容の明確化及び安定性を確保するとともに、無用な紛争を防止するという、手続上の便宜及び権利侵害紛争上の便宜を考慮したものです。

上記の要件に加えて、同規則においては、一つの意匠権の内容が広範に過ぎるものとならないよう、意匠に係る物品、意匠に係る建築物若しくは画像の用途、組物又は内装が明確なものでなければならないとの要件をも規定しています。
審査官は、出願された意匠が、この要件を満たしているか否かを判断するにあたり、願書の「意匠に係る物品」の欄の記載のみならず、願書のその他の欄の記載及び願書に添付された図面等を総合的に判断し、意匠登録を受けようとする意匠の物品等の用途及び機能を明確に認識できる場合は、この要件を満たしたものと判断します。

本記事では、一意匠一出願について解説します。

意匠ごとに出願されたものであるか否かの判断

審査官は、意匠登録出願が、例えば以下に該当する場合は、二以上の意匠を包含し、意匠ごとにした意匠登録出願に該当しないと判断します。

(1) 二以上の物品等を願書の「意匠に係る物品」の欄に並列して記載した場合
(2) 図面等において二以上の物品等を表した場合(数個の物品等を配列したものの場合を含む。)
ただし、組物の意匠又は内装の意匠の意匠登録出願である場合を除く。
(3) 一つの物品等の中に、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれている場合

二以上の物品等に該当するか否かの判断における考え方

図面等に複数の構成物が表されている場合であっても、社会通念上それら全ての構成物が一の特定の用途及び機能を果たすために必須のものである場合は、審査官は一の物品等であると判断します。
当該結びつきが強固ではない場合であっても、以下に該当するものである場合は、審査官は、それらの点も補完的に考慮して、一の物品等であるか否かを判断します。
(ア)全ての構成物が物理的に一かたまりのものである場合や、形状等において密接な関連性を持って一体的に創作がなされている等、一の形状等としてのまとまりがある場合
(イ)社会通念上一体的に実施がなされ得るものである場合
複数の構成物において一の特定の用途及び機能を果たすための結びつきが何ら認められない場合は、審査官は二以上の物品等と判断します。
ただし、社会通念上一体的に流通がなされ得るものであり、かつ、全ての構成物が形状等の密接な関連性を持って一体的に創作がなされている場合は、審査官は、一の物品等であると判断します。

一つの物品等の中に、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれている場合

物品等の部分について意匠登録を受けようとする出願において、一の物品等の中に、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれているものは、原則、意匠ごとにした意匠登録出願と認められません。

しかしながら、審査官は出願された意匠が以下のいずれかに該当する場合は、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれているものであっても、一意匠と取り扱います。

(1) 形状等の一体性がある場合
(2) 機能的な一体性がある場合
(3) ある用途及び機能を果たすための部分や、形状等のまとまりを有する部分を「その他の部分」としたものである場合
(4) 開示がなされていない部分によって隔てられ、意匠登録を受けようとする部分が図面上物理的に分離した状態で表れたものである場合

意匠に係る物品等の用途及び機能の明確性についての判断

意匠登録を受けようとする意匠は、意匠に係る物品等の用途及び機能が明確なものでなければならないこととされています。

審査官は、出願された意匠について、意匠に係る物品等の用途及び機能が不明である場合や、多数の物品等を含み得るような不明確なものである場合は、この要件を満たしていないと判断します。

審査官は、意匠法第6条が願書に記載する事項として規定する「意匠に係る物品又は意匠に係る建築物若しくは画像の用途」は、願書の「意匠に係る物品」の欄の記載で明らかにすることが原則である点に留意しつつも、出願された意匠が、この要件を満たしているか否かについては、「意匠に係る物品」の欄の記載のみならず、願書のその他の記載及び願書に添付された図面等を総合して判断を行います。

【意匠に係る物品】の欄の記載

意匠登録出願をする場合には、意匠登録を受けようとする意匠ごとに、その意匠に係る物品又は意匠に係る建築物若しくは画像の用途を願書の【意匠に係る物品】の欄に記載する必要があります(意匠法第6条第1項第3号)。

従来この【意匠に係る物品】の欄には、経済産業省令で定める「物品の区分」を記載するよう規定されていましたが(意匠法第7条)、令和元年の一部改正により、同欄は「経済産業省令で定めるところにより」記載することとなり、「物品の区分」を掲げていた「意匠法施行規則別表第一(以下、「別表第一」)」は廃止されました。

したがって、令和3年4月1日から、【意匠に係る物品】の欄は、意匠に係る物品若しくは意匠に係る建築物若しくは画像の用途、組物又は内装が明確となるように記載することとなります(意匠法施行規則第7条)。

特許庁意匠審査基準室では、意匠に係る物品若しくは意匠に係る建築物若しくは画像の用途又は内装が明確となるような【意匠に係る物品】の欄の記載の具体例を掲げた表「意匠に係る物品等の例」を作成しています。この「意匠に係る物品等の例」は、意匠登録出願の願書作成時の参考となるよう、従前の「別表第一」をもとに、近年の意匠登録実績に応じた物品名の追加・削除、古い表記の見直し、掲載順の変更等を行ったものです。

「意匠に係る物品等の例」はこちら
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/ishou_kisoku_betuhyo.html

意匠に係る物品等の用途及び機能が不明確なものの例

審査官は、意匠登録出願が、以下に該当する場合は、出願された意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が不明確なものと判断します。

(1) 願書の「意匠に係る物品」の欄の記載が、以下に該当する場合

a) 意匠の属する分野において、日本語(国際意匠登録出願の場合は英語)の一般的な名称として使用されていないもの
(例:日本語(国際意匠登録出願の場合は英語)以外の言語によるもの、一般的な名称として広く認識されるに至っていない省略名称、商標や商品名等の固有名詞を付したもの。 ただし、日本語の場合、アルファベットによる略称表記(例、「LED」、「DVD」等)を含むものであっても、一般的な名称として使用されているものである場合には、問題のないものとして扱います。)

b) 用途及び機能を何ら認定することができないもの
(例:「物品」、「もの」)

(2)

願書の記載及び願書に添付した図面等を総合的に判断しても、出願された意匠の物品等の用途及び機能を明確に認定することができない場合

法上の取扱い

一意匠一出願の原則を遵守する場合

他の登録要件(3条、5条等)具備を条件に設定登録され(20条)、意匠権が発生します(23条)。

一意匠一出願の原則に違反する場合

7条違反として拒絶されます(17条)。かかる拒絶理由に対しては、補正(60条の3)、分割(10条の2)等により救済され得ります。

但し、7条違反を理由としては無効とされません(48条)。7条は手続の便宜等を図る観点から設けられた規定であり、実体的瑕疵がない限り、無効とするのは妥当ではないからです。

<参考>複数意匠一括出願手続

令和元年の一部改正では、複数の自社製品に共通の一貫したデザイン・コンセプトを用いることでブランド価値を高める企業が増えている中、同一のコンセプトに基づく形状等を別々の物品に応用したもの等について一括して出願することへのニーズが高まっている状況を踏まえ、複数の意匠に係る出願を一の願書により行う手続についても、経済産業省令(意匠法施行規則第2条の2等)で定めることとされました。

(1)複数意匠一括出願手続のフロー概要
・出願手続後、手続番号が通知され、方式審査が行われる。
・方式審査完了等の要件を満たした後、個別の意匠登録出願に出願番号が通知される。
・実体審査や意匠登録は、現行制度と同様に個別の意匠登録出願について行う。

(2)願書の様式
・複数意匠一括出願手続の願書は、様式第二の二により作成しなければならない。
・願書の一部の記載は、含まれる全ての意匠登録出願について、当該事項と同一の内容の事項が記載された願書によりされたものとみなされる。
・意匠に係る物品、創作者情報、意匠に係る物品の説明、意匠の説明の欄は、意匠ごとに設けなければならない。

(3)願書とともに提出された書類の扱い
・複数意匠一括出願手続において提出された一部の書類(新規性喪失の例外適用証明書、優先権証明書又はアクセスコード等を記載した書面など)は、その提出日に、含まれる全ての意匠登録出願に対し提出されたものとみなされる。

(4)複数意匠一括出願手続に含めることができない出願等
・分割出願や変更出願などの一部の出願については、複数意匠一括出願手続に含めることはできない。
・特徴記載書等の一部の書類は、複数意匠一括出願手続について提出することができない。

(5)優先権証明書の交付等の請求
・優先権証明書の交付、意匠登録に関する書類の謄本等の交付及び閲覧の請求は、複数意匠一括出願手続番号によって請求することで、当該手続に含まれる複数の意匠登録出願について一括請求することが可能。(出願番号通知後も請求可能)
・従来どおり、出願番号によって請求することで、個別の意匠登録出願について請求することも可能。

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