「関連意匠」は製品のバリエーションを保護します

デザインの創作過程において、一つのコンセプトから多くのバリエーションの意匠が生まれることはよくあることです。関連意匠制度は、同一出願人が創作した一群のデザインを同等の価値を有するものとして保護し、各々の意匠について権利行使することを可能にする制度です。

以下に、関連意匠制度の概要、登録要件や審査基準、メリットと活用方法を分かりやすく解説し、関連意匠の利用方法をご提供します。

関連意匠制度の概要

工業製品の開発過程で、プロダクトデザインにバリエーションを持たせたり、バリエーションが後から増えていくことがあります。

プロダクトデザインのバリエーション全体を一群のデザインとして保護するのが関連意匠制度です。

関連意匠制度では、基礎となる意匠のデザインコンセプトを引き継ぐ意匠は、関連意匠として登録が認められます。先願の規定(意匠法第9条)の例外として規定され、先行する自己の意匠と類似する意匠であっても、関連意匠とすることで権利化を図ることができるのです。

第十条(関連意匠)
 意匠登録出願人は、自己の意匠登録出願に係る意匠又は自己の登録意匠のうちから選択した一の意匠(以下「本意匠」という。)に類似する意匠(以下「関連意匠」という。)については、当該関連意匠の意匠登録出願の日がその本意匠の意匠登録出願の日以後であつて、当該本意匠の意匠登録出願の日から十年を経過する日前である場合に限り、第九条第一項又は第二項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができる。

関連意匠の登録要件と審査基準

「関連意匠」の「本意匠」と「基礎意匠」

関連意匠登録を受けるためには、自己の意匠登録出願に係る意匠または自己の登録意匠のうち一つの意匠を選択する必要があります。この選択された意匠を「本意匠」と呼びます(意匠法第10条第1項)。最初に選択された本意匠、すなわち、他の意匠の関連意匠でないものを「基礎意匠」と呼びます(意匠法第10条第7項)。また、基礎意匠の関連意匠及び当該関連意匠に連鎖する段階的な関連意匠を「基礎意匠に係る関連意匠」と呼びます。

関連意匠として意匠登録を受けるための要件

出願された意匠が、関連意匠として意匠登録を受けようとするものである場合は、通常の意匠の登録要件のほか、以下の関連意匠として意匠登録を受けるための所定の要件(1)~(3)を満たすかについても判断します。

※特許庁審査基準より

(1)本意匠と同一の意匠登録出願人による意匠登録出願であること
関連意匠の意匠登録出願人は、本意匠の意匠登録出願人(本意匠について意匠権の設定の登録がなされている場合は本意匠の意匠権者)と同一でなければなりません。審査時と登録時の両方で同一であることが求められます。

(2)本意匠に類似する意匠に係る意匠登録出願であること
出願された意匠が関連意匠として登録を受けるためには、本意匠に類似するものでなければなりません。関連意匠と本意匠が同一である場合は、関連意匠として登録を受けることができません。

【ポイント】
関連意匠にのみ類似する意匠についても、当該関連意匠を本意匠とみなして関連意匠として登録することができます。

(3)基礎意匠の意匠登録出願の日以後、10年を経過する日前に出願された意匠登録出願であること
関連意匠は、その意匠登録出願の出願日が、基礎意匠の意匠登録出願の出願日以後であって、出願日から10年経過する日前でなければなりません。基礎意匠の意匠登録出願の出願日及び関連意匠の出願日のいずれについても、優先権主張の効果が認められる場合は、優先日に基づいて判断されます。

本意匠等が満たさなければならない要件

審査官は、出願された意匠が関連意匠として登録を受けることができるか否かについて審査を行う際、関連意匠自体が満たさなければならない要件に加え、本意匠等についても、以下の要件(1)、(2)を満たしているか否かを判断します。

(1)本意匠の意匠権が消滅等していないこと
関連意匠の意匠権の設定の登録の際に、その本意匠の意匠権が消滅しているとき、無効にすべき旨の審決が確定しているとき、又は放棄されているときは、関連意匠を登録することはできません。
この場合、基礎意匠の意匠権が維持されていることは必須ではありません。基礎意匠の意匠権が消滅していても、本意匠が維持されていれば関連意匠出願は登録が可能です。

【ポイント】
関連意匠の審査では、自己の意匠のうち本意匠(基礎意匠)と同一又は類似する意匠は、新規性及び創作非容易性の判断の基礎となる資料から除外されます。
ただし、本意匠の権利が消滅した場合、本意匠と同一又は類似する自己の意匠は、関連意匠の新規性及び創作非容易性の判断の基礎となる資料から除外されません。つまり、本意匠を既に実施している場合、関連意匠が登録になるまで本意匠の権利を維持する必要があります。

(2)本意匠の意匠権に専用実施権が設定されていないこと
専用実施権が設定されている意匠を本意匠とする関連意匠については、意匠登録を受けることができません。
もし、本意匠や関連意匠の専用実施権が別々の人に設定されると、本意匠と関連意匠の重複する部分について複数の人に排他的独占権を与えることになる、という不都合があるからです。
専用実施権は、本意匠と全ての関連意匠について、同一の人に対して同時に設定しなければなりません。
なお、本意匠に専用実施権が設定されている場合であっても、当該専用実施権の抹消が登録された場合は、関連意匠を登録することが可能となります。

関連意匠の存続期間

通常の意匠登録の場合、意匠権の存続期間は出願日から25年です(意匠権の存続期間については、2020年法改正により、登録日から20年⇒出願日から25年に変わりました)。

一方、関連意匠の存続期間は、以下のように定められています。

  • 基礎意匠が改正法施行前(2020年3月31日よりも前)に出願
    ⇒基礎意匠の「登録日から20年」
  • 基礎意匠が改正法施行後(2020年4月1以降)に出願
    ⇒基礎意匠の「出願日から25年」

本意匠は関連意匠の設定登録の時点で存続していればよいです。関連意匠にも独立の意匠権が認められているため、関連意匠の登録後は、本意匠が放棄、登録料の未納、無効審決によって消滅したとしても、関連意匠は存続します。

関連意匠の特許庁料金

関連意匠出願を行う場合に特許庁に支払う出願費用、関連意匠出願の設定登録の際に特許庁に支払う登録料は、通常の意匠登録出願の出願料、登録料と同じ料金です。

拒絶理由通知後の関連意匠・通常の意匠への補正

関連意匠とせずに意匠出願を行っても、特許庁の審査において、自身の先の意匠出願に類似するとして拒絶理由通知が出されることがあります。その場合、先願(同日の場合はいずれか)の意匠を本意匠とし、後願の意匠(同日の場合は本意匠以外の意匠)を関連意匠とする記載を追加する補正(関連意匠の願書に、本意匠の記載を追加する補正)を行えば、類似する自身の意匠出願両方を登録することができます。

逆に、関連意匠として意匠出願を行い、特許庁の審査において、関連意匠が本意匠と類似していないと判断された場合には、関連意匠を通常の出願とする補正を行うこともできます。

部分意匠と関連意匠

部分意匠制度(意匠法2 条)は、物品の部分に係る独創的で特徴ある意匠を第三者に模倣されることを防止すべく導入された制度です。

部分意匠を本意匠・関連意匠として出願することは可能です。

また、全体意匠と部分意匠とを本意匠・関連意匠として出願することも可能な場合があります。

関連意匠のメリット

意匠法の保護対象は、物品等の外観に現れる形状や模様、色彩とされています。そのため、意匠権は特許権と比べて権利の範囲が狭く、少し形やデザインが違うだけでも非類似と判断されてしまう場合があり、せっかく権利化しても効果的に使えないことがあります。

このような場合には、関連意匠制度を有効に使い、複数の関連意匠について権利を取得することで、意匠権の権利範囲を広げることができます。

関連意匠の活用方法

ブランド戦略での優位性

企業活動におけるブランド戦略の重要性が高まっています。
一般的に企業のブランド戦略では、同じコンセプトのデザインを継続して展開し、自社ブランドの統一感を高めることで、消費者の認知向上や販売拡大を狙うことが考えられます。

関連意匠制度を利用すれば、継続的に進化し続ける広範な一群のデザインを、包括的に保護することができます。それにより、自社ブランドを確立し、競争優位性を保つ、という企業経営上の目標を達成できます。

製品化後のモデルチェンジへの対応

新しく開発された製品を、初期のモデルから第2世代、第3世代へとモデルチェンジを行うことがあります。この場合、僅かなデザインの変更であっても、関連意匠制度を利用すれば、後継モデルに対応した意匠権を取得することができます。

侵害対策

上述のとおり、意匠権は特許権に比べて権利範囲が狭く、少し形状を変えただけでも容易に侵害を回避できることがあり、侵害品への対応が難しいことが課題でした。そこで、関連意匠制度を活用して、模倣品に対応し得る複数の本意匠、関連意匠で意匠権を広く取得しておくことで、他社による模倣を回避することができます。

関連意匠の登録事例を紹介します。

・物品の全体の意匠と部分意匠とが本意匠・関連意匠として登録された例

意匠登録第1673669号(本意匠) 意匠登録第1673994号(関連意匠)

※実線が意匠登録を受けようとする部分。破線部分については、類否判断に及ぼす影響が少ないとして、本意匠類似と認められたと考えられます。

・物品の一部に画像を含む意匠と画像意匠で本意匠・関連意匠として登録された例

(実線が意匠登録を受けようとする部分)

意匠登録第1675446号
(本意匠:電子計算機)
意匠登録第1675496号
(関連意匠:画像)

・建築物の関連意匠の登録例

意匠登録第1721535号(本意匠) 意匠登録第1732986号(関連意匠)

まとめ

関連意匠の制度を戦略的に活用して、広くて強い意匠権を獲得することができれば、自社ブランドの確立の大きな手助けになるでしょう。

ただし、バリエーションがあるデザインで複数の意匠出願を行う場合に、どれを本意匠(基礎意匠)とし、どれを関連意匠とするかといった検討や、複数のバリエーションで本意匠・関連意匠が登録されている場合に、新しく出願するデザインはどれを本意匠として選択するべきか、といった検討は重要です。その場合は、専門家にアドバイスを求めることをお勧めします。

ハーグ協定に基づく意匠の国際出願でも、関連意匠制度を利用できるケースがあります。
国際出願では、一つの出願に最大100意匠を含めることが可能です。関連意匠制度のある日本や韓国を指定国とする場合、国際出願時に関連意匠の表示をすることができます。

また、日本での審査段階において、ハーグ出願と直接日本出願とを、本意匠・関連意匠とする対応も可能です。

当事務所には、意匠を専門に扱う法務系弁理士が多数在籍しております。
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