建築物・内装デザインの保護

改正意匠法施行~建築物・内装デザインが保護可能に~

2020年4月1日の改正意匠法の施行により、これまで保護の対象外だった「建築物や内装のデザイン」が保護の対象となりました。

以下、改正法意匠法や審査のポイントからビジネス上想定される活用場面や注意点まで、具体例を交えてご紹介します。

 

1.審査のポイント

(1)建築物・内装の該当性

建築物の要件

①土地の定着物であること。

②人工構造物であること。土木構造物を含む。

建築物の例

(出典)JPO:意匠の審査基準及び審査の運用~令和元年意匠法改正対応~

建築物でない例

例1:庭園灯、仮設テント、船舶、航空機、キャンピングカー(定着物でないため)

例2:自然の山、岩、樹木、スキーゲレンデ、ゴルフコース、土地そのもの(人工構造物でないため)

  • ポイント

    一見定着物とも言えそうな仮設テントは、一時的に設営されるものであるため定着物ではないとされています。しかし、テントは物品の意匠として保護することが可能です。
    また、通常内部の形状等が視認される建築物は、その内部の形状も構造物の一部として権利範囲として保護できる場合があります。
    権利化をしたいデザインが、建築物・内装・物品のどれにあたるのか、権利化の目的に合わせていずれの意匠で保護すべきなのかを出願前に検討することが必要です。

 

内装の要件

①店舗、事務所その他の施設の内部であること

→不動産だけでなく、客船や各種車両、旅客機の内装も含まれます。

(出典)JPO:意匠登録出願の基礎(建築物・内装)

ただし、通常の使用状態で視認できない範囲は除かれます。

(ガスタンクの内部、天井裏、壁裏、床下の空間、パイプスペースなど)

 

②複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること

→机や椅子、什器類等の物品から構成されない、施設の内部のみでは内装とは認められません。

(出典)JPO:意匠審査基準

内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること

→視覚的に一つのまとまりのある美感を起こさせるものである必要があります。

  • ポイント

    統一的な美感がどこにあるかを審査官が的確に認識できるようにするため、出願時に「特徴記載書」を作成し、意匠の特徴を説明することが有効です。
    なお、内装には人が内部に入り一定時間をすごすあらゆる施設が含まれます。
    業種に関わらず、販売店舗等の施設を有する企業は、今まで意匠権と関わりがなかったとしても、今後は権利侵害とならないよう注意が必要となります。

 

(2)新規性(類否判断)

建築物の場合

類似の例

(出典)JPO:意匠審査基準

  • ポイント

    用途及び機能の判断について、例えば「住宅」「病院」「オフィス」等人がその内部に入り一定期間をすごすものについては、用途及び機能が類似すると判断します。一方、土木構造物は、橋梁、電波塔などは様々な異なる固有の用途を有するため、用途及び機能が類似しないと判断される場合があります。
    形状等の類否の観察方法について、例えば店舗用建築物は、路面側の面にのみデザインを施すことが多いため、このような建築物はその面での共通点や差異が判断において重視されます。

 

内装の場合

類似の例

非類似の例

(出典)JPO:意匠審査基準

  • ポイント

    物品の意匠では、用途機能が異なれば、形状が同一類似でも、類似意匠とは判断されません。これに対して、内装の意匠では、原則全ての内装の意匠の用途及び機能に類似性があると判断されるため、業種を越えて権利行使を受ける可能性があります。

 

(3)創作非容易性

物品の意匠と同様、創作非容易性の判断においては、「ありふれた手法」や「軽微な改変」にあたるかどうかが審査されます。建築物および内装の意匠における具体例は以下の通りです。

建築物の場合

具体例(一部抜粋)

(出典)JPO:意匠の審査基準及び審査の運用~令和元年意匠法改正対応~

  • ポイント

    基本的には物品における創作非容易性の考え方と同様ですが、建築物の判断においてのみ「軽微な改変」の例として挙げられているものとして、「屋根の傾斜角の単純な変更」があります。

 

内装の場合

具体例(一部抜粋)

(出典)JPO:意匠の審査基準及び審査の運用~令和元年意匠法改正対応~

 

2.活用場面

他社との差別化を図ることができます

近年は、あらゆる顧客の体験が企業のブランドへ結びつくため、建築物や内装などの空間についても、その差別化が商品やサービスのブランド価値を生むと考えられます。

このような状況において、建築物・内装のデザインについて意匠権を取得することは、その独占権により、他社の模倣をけん制し、差別化を促進することで、自社ブランドの確立に大きく寄与することが出来ると考えます。

http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1428023

また、新規性や非創作容易性等のハードルをクリアして登録に至ったということは、前例のないオリジナルティあふれるデザインであるという証明を得たことになります。

例えばデザイナーや設計事務所などにとっては、コンペ等でオリジナルティあふれるデザインであることを示すアピールポイントの一つとなり得ます。

 

紛争の未然防止に有効です

意匠法制度では、登録に至った意匠には「意匠登録第○○号」といった明確な形で権利が与えられます。原則、先行する意匠権を侵害しないことの一定の証明となりますので、発注者・施工主も安心して施工・使用できるようになります。

また、この明確な権利に基づいて権利行使をすることが可能ですので、他社の模倣をけん制し、紛争の未然防止につながります。

  • 著作権との違い

    建築物などのデザインは著作権によっても保護される可能性があります。ただし、著作物と認められるためには、芸術作品が該当するような高い要件を満たす必要があり、一般の住宅等のデザインは著作物にあたらない可能性が高いと考えられます。一方、意匠権で求められる美感の程度は、著作権で求められるものよりは低いため、一般的な住宅でも権利を取得できる可能性があります。

 

3.注意すべきこと

事前調査の必要性

建築業界においては、既に存在する建築物の要素をデザインに取り入れる場合も少なくないかと思います。

仮にそれらの先行のデザインが意匠登録されていれば、類似する建物や内装の建築・施工・使用等は、侵害行為に該当する可能性があります。

意匠権侵害となった場合、その建築物や内装の変更・使用中止・最悪の場合取り壊しが必要になる場合もあります。通常一点物である建築物や内装にとって、そのような事態となれば、莫大な損害が発生することになります。

知らぬ間に他社の権利を侵害していたという事態にならないように、建築物や内装をデザイン・実施するに当たっては、事前の調査をすることが重要となります。

また、デザイナーや建設会社等の複数の人が関わる事業の場合、誰が事前の調査を行うのか、誰が権利化するのか、侵害となった場合に誰が責任を負うのか等について、契約書で明確に定めておく必要があります。

 

デザインの変更について

意匠登録出願は、一度出願してしまうと、原則図面(デザイン)を修正することができません。

ただ、建築物や内装は、デザインの起案や設計、実際の施工段階において、そのデザインの変更が往々にしてあり得る業界ではないでしょうか。

この点、意匠権は登録意匠に類似する範囲まで及ぶため、実際の建築・内装デザインは登録意匠と完全に同一である必要はありません。登録意匠と実際の建築物に違いがあっても、類似範囲でカバーできる可能があります。

もちろん、実際に使用する建築・内装デザインと同一の権利を得るに越したことは無いため、調査や出願を行うタイミングを慎重に見極める必要があります。

  • 部分意匠 と 関連意匠

    例えば、建築物の一部に特徴的なデザインを施した場合、その部分のみについて意匠登録を受けることができます。これにより、特徴的なデザイン部分を取り込みつつ、建築物全体では非類似となるような意匠に対しても権利行使をすることが出来るようになります。

    また、デザインのバリエーションは関連意匠制度を利用して、広い権利網を構築し、強い意匠権を戦略的に取得することが可能です。 例えば、出願済みの「本店」の内装と、デザインが共通する「2号店」を開店するような場合、「2号店」のデザインを関連意匠として出願することが可能です。

 

 

 

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