関連意匠制度の活用

令和元年意匠法改正により、関連意匠制度が大幅に改正されました。改正のポイントは以下の3つです。

①関連意匠を出願できる期間が大幅に延長(基礎意匠*1の出願日から10年以内)。

②基礎意匠及び基礎意匠に係る関連意匠と同一又は類似の意匠を自己が実施していても新規性・創作非容易性の判断の基礎とならない。

③関連意匠にのみ類似する意匠の登録が可能。

*1 基礎意匠にのみ該当する事項については「基礎意匠」、その他の本意匠にも該当する事項については「本意匠」と記載しています。

上記のように、関連意匠については、長期間に亘って新規性喪失の例外適用が受けられるような制度となったので、近年多くの企業で取り入れられているアジャイル型開発手法(繰り返し試作品を作成して市場の反応を見ながら製品を開発していく手法)などを実施している企業にとっても、関連意匠制度は非常に利便性の高い制度となり、広い範囲で網羅的に意匠権を構築できるようになりました。以下に、関連意匠制度の改正内容を説明し、戦略的な利用方法をご提案致します。

 

1.関連意匠制度の改正内容

①出願できる期間が大幅に延長(基礎意匠の出願日から10年以内)

改正前の関連意匠制度では、本意匠の意匠登録公報が発行される(出願から約8カ月)までに関連意匠を出願する必要がありましたが、改正により、基礎意匠の出願日(優先権の主張の効果が認められる場合は優先日)から10年以内に出願した関連意匠について登録が認められることになりました。

(特許庁「意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~」より)

上の図のように、基礎意匠が消滅している場合であっても、関連意匠Bの本意匠(関連意匠A)の意匠権が維持されていれば登録が可能です。

一方、設定登録時に関連意匠Cの本意匠(関連意匠B)の意匠権が維持されていない場合は、関連意匠Cは登録を受けることができませんので注意が必要です。

基礎意匠の出願日が改正法施行前であっても、関連意匠を基礎意匠の出願日より10年以内に出願することが可能です。よって、改正前に公報発行までの出願が間に合わず、出願を断念した意匠であっても登録が認められることになります。(新規性、創作非容易性など登録要件を満たす必要があります。)

 

②自己の基礎意匠及び基礎意匠に係る関連意匠と同一又は類似の意匠を自己が実施していても新規性・創作非容易性の判断の基礎とならない。

改正後は、基礎意匠及び基礎意匠に係る関連意匠の意匠公報の発行や、自社製品等を製造・販売することによって基礎意匠や関連意匠と同一又は類似の意匠を実施している場合でも、当該実施によって関連意匠の登録が妨げられることはありません。*2

*2 基礎意匠の関連意匠が消滅した場合、それに類似する自己の公知意匠はその後の関連意匠に係る新規性・創作非容易性判断の基礎となります。

(特許庁「意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~」より)

よって、関連意匠の出願のために、本意匠の実施を遅らせるということは必要なくなり、市場に投入したデザインの売れ行きや、デザインの動向に応じて関連意匠出願をしていくことが可能になります。

一方、新規性の判断の基礎から除外されるのは、自己の意匠に限られるため、他者が実施等している意匠に関連意匠が類似する場合は登録を受けることができません。

 

③関連意匠にのみ類似する意匠

改正前は、関連意匠にのみ類似する意匠は登録されませんでしたが、改正後は、基礎意匠と類似していなくても本意匠として選択した関連意匠に類似していれば関連意匠として登録されます。よって、過去に関連意匠にのみ類似する意匠として9条により拒絶された意匠についても要件を満たせば、登録を受けることができるようになります。過去に権利化を断念した場合も、商品化の可能性があるものについては再度出願することをご検討ください。

 

2.活用方法

①関連意匠の存続期間が基礎意匠の出願日から25年(改正後)までに延長

関連意匠の存続期間は基礎意匠の出願日から起算して25年となります。基礎意匠が改正法施行前(2020.3.31まで)に出願された場合に、改正前に出願された関連意匠の存続期間は本意匠の登録日から20年となりますが、改正後に出願された関連意匠の出願期限は、基礎意匠の出願日から25年となるため、満了日が一致せず、管理には注意が必要です。なお、改正前の意匠登録を基礎意匠とする場合、基礎意匠の存続期間が満了した後も、関連意匠の存続期間は継続することになるため、約5年程、基礎意匠の類似の範囲に係る意匠の独占権を延長することができます。

<基礎意匠と関連意匠の存続期間の例>

 

②秘密意匠*3

関連意匠を出願することで、基礎意匠のデザインコンセプトを引き継ぐ一連の意匠の戦略的保護が可能となることが期待されます。一方、関連意匠出願をすることで、意匠の類似の範囲が他者に予見可能となることから、一群のデザインを取り入れつつ侵害を回避した類似品を作成できるのではないかという懸念が生じると考えられます。その場合、他者の予見可能性を抑制する手段として、秘密意匠が効果的であると考えられます。秘密意匠とすることで、他者はデザイン開発の方向性や、意匠権を取得しているのか否かを予想することができず、類似品を販売できないというけん制効果が働きます。そのため、出願件数を絞り込めるとともに、自社製品の販売を有利に進めることができると考えられます。

*3 秘密意匠とは、出願時又は納付時に3年以下の期間を指定し、当該意匠の登録後、指定された期間は意匠公報において当該意匠図面、物品の名称、意匠の説明などの意匠を特定できる記載が公開されないようにするものです。

 

3.最後に

出願期間が大幅に延長され、利便性が高まったと考えられる関連意匠出願ですが、その効果を担保する措置としてとられた「新規性喪失の基礎となる資料から除外する資料」の考え方はより複雑になったと考えます。当所では、本意匠の選定や出願要件の他、実施品との類否なども可能な限りアドバイスさせて頂きます。関連意匠出願をご検討の際は、お気軽にご相談ください。

 

 

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