自社製品について意匠登録した。登録した意匠と少し変えた形で意匠に係る物品を製造・販売しても他者の意匠権を侵害することはないか。

意匠権者は業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有します(意匠法23条)。したがって、製造・販売する意匠に係る物品が「登録意匠に類似する意匠」に係る物品の範囲内であれば、原則として意匠権を侵害しないことになります。

「登録意匠に類似する意匠」に係る物品の範囲にあるかについては、例えば登録意匠が関連意匠である場合には本意匠としたものまで形状等を変えても登録意匠に類似する意匠と考えることができます。一方、本意匠と関連意匠の関係にない場合は「登録意匠に類似する意匠」に係る物品の範囲を想定することが困難であります。このようなときは、製造・販売している物品が、「登録意匠に類似する意匠」に係る物品なのかどうか、弁理士に鑑定依頼を求めたり、特許庁に判定※1を求めることができます。

なお、利用・抵触関係※2にあたる他者の登録意匠等の存在がある場合は意匠権者であったとしても意匠の実施は制限される点に留意が必要です。

※1「判定」

特許庁に対して判定の請求を行うことで、特許庁の審判官が登録意匠と対象となる意匠の類否を判断します。

(メリット)

  • 特許庁の中立・公平な立場での判断を得られる。
  • 最短で3ヶ月で結論を得ることができる。
  • 特許庁への判定請求料は1件4万円で安価である。
  • 法的拘束力はないものも、特許庁の公式見解であって、鑑定書に相当するものとされ、事実上社会的にみて十分尊重され、権威ある判断の一つとされている。

※2「利用・抵触関係」

  • 「利用」の例
    例えば、部品の意匠と完成品の意匠との関係で、完成品の意匠が部品の意匠をそっくりそのまま自己の登録意匠の中に取り入れている場合には、完成品の意匠の意匠権者の意匠の実施は制限されます。下記は「利用」関係が問題となった有名な裁判例(学習机事件)であり簡単に紹介いたします。
<先願登録意匠>
<後願登録意匠>

(裁判所における判断)
後願登録意匠は、先願登録意匠に類似する形態の本体部分に棚を取り付けたものであり先願登録意匠を利用するものであるとして、後願意匠の実施は先願意匠の意匠権を侵害するものと判断された(昭和45年(ワ)507号判決)。

  • 「抵触」の例
    意匠の構成要素として商標が取り込まれており、意匠を実施すると他人の登録商標をその指定商品等について使用した状態が生じる場合をいいます。商標権は登録商標をその指定商品等について使用することができる権利なので意匠に係る物品と登録商標の指定商品等が無関係であれば抵触の問題は生じません。

自社製品と明らかに似た製品を無断で製造・販売している第三者を発見した。どのような解決手段があるか?

<当事者間による解決>

侵害行為を行っている者に警告状を送って、侵害行為を止めるよう交渉する方法があります。警告状を送られた相手方は自発的に侵害行為を停止することも少なからずありますが、損害賠償にまでは応じてくれないこともあります。この方法は、相手が自発的に侵害行為を止めることを期待するものであり、侵害行為を止めるよう強制するものではありません。侵害行為が中止されず、被害が継続・拡大する恐れもあるので、その点注意が必要です。また、相手が自分の権利を侵害していると思って相手方の取引先に警告状を出したものの、実際は相手の行為が侵害に当たらなかった場合や警告状の根拠とした意匠権が後日、無効とされた場合等には警告状を相手の取引先等に発送したことが営業誹謗行為となり、かえって相手方から損害賠償を請求されるなどして紛争がこじれてしまうこともあります。したがって、警告状を誰に対してどのような内容で送るかについては慎重に検討しなければなりません。交渉を優位に進めるためには、事前に弁理士の鑑定書の入手や判定制度を利用し、交渉における材料とすることも考えられます。

<第三者による解決>

調停制度

第三者に調停人となってもらい、調停人が紛争当事者の間に入って両者の言い分を聞いた上で調停案を示し、両当事者がこれに合意するという紛争解決方法です。調停は調停人が両当事者の和解をあっせんするもので、両当事者が合意できない場合には成立しないので、調停の手続を利用しても調停の成立が強制されることはなく、合意できない場合にはその時点で調停は終わる点に留意が必要です。調停制度には裁判の公開の原則が当てはまらないので、紛争解決の手続を双方とも秘密に処理したい場合に便利です。

仲裁制度

第三者に仲裁人となってもらい、仲裁人が間に入って両者の言い分を聞き、仲裁判断を下すという仲裁機関による仲裁制度を利用する方法があります。裁判所以外の機関が行う調停との違いは、仲裁手続を利用することを両当事者が合意すると、仲裁人が下した仲裁判断には裁判と同じ法的な強制力があります。仲裁制度を利用することで、裁判手続よりも比較的簡易な手続で、早期に解決できることがあります。また、仲裁制度にも裁判の公開の原則が当てはまらないので、紛争解決の手続を双方とも秘密に処理したい場合に便利です。

<裁判所による解決>

  • 差止請求
    意匠権侵害行為に対する差止の態様は以下のものがあります
    1.侵害行為の停止の請求
    2.侵害行為の予防の請求
    3.侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為
    ※  3.の請求については1又は2とともにのみ請求することができます。
    ※  侵害された意匠権が秘密意匠である場合は、登録意匠の内容を提示して警告した後でなければ差止請求することはできません(意匠法37条3項)。
    ※  意匠権侵害が現実化しており、これを放置していては著しい損害が生じる可能性がある場合など緊急性があるときには、裁判所に対して、まず侵害行為の停止を内容とする仮処分を申し立てることもできます。
  • 損害賠償請求
    意匠権を侵害する製品を製造・販売している者に対して損害賠償請求をすることができます。損害賠償請求をするためには多くの事実について立証しなければならないところ、その立証は困難な場合も多いので損害額については立証負担を軽減するために意匠法が算定規定を設けています(意匠法39条)。また侵害者の過失については侵害行為について過失があったものと意匠法で推定することとし※、意匠権者から侵害者に対する損害賠償請求を容易にしています。
    ※  秘密意匠に係る意匠権の侵害行為については過失の推定規定が働きません。
  • 不当利得返還請求
    不当利得返還請求権を行使できることもあります。
  • 信用回復措置請求
    故意又は過失により意匠権を侵害したことにより意匠権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、意匠権者の請求によって、信用を回復するための措置を命じることができます。具体的には侵害者の粗悪品によって、意匠権者の業務上の信頼が害された場合と評価できれば、謝罪広告の掲載などの措置を求めることができます。
  • 刑事責任の追及
    自社製品と明らかに似た製品を無断で製造・販売する行為については、侵害罪として10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金に処し又はこれを併科すると意匠法に規定されているため、意匠権を侵害されたときには刑事責任の追及も視野に入れることができます。
    法人については、その実行行為者の処罰に加えて、法人にも罰金刑が科されます。

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