(1)はじめに

国内のAV機器業界全体は、2007年まで堅調に推移していたものの、2008年の金融危機以降市場縮小が続いている状況です。安価なDAP(デジタルオーディオプレイヤー)の普及に始まり、そのDAPも音楽再生可能な多機能スマートフォンに市場を奪われ、また、海外へ生産拠点を移動させた影響、およびアジア勢との価格競争もあり、国内出荷金額は低迷しています。

アンプ・スピーカー・マイクの海外輸入金額は金融危機後も安定していることから、国内需要は多いものの、国内企業のシェアが海外企業より優位に立ってはいないことを伺わせます。

[参考:ENGINEER PIT/業界動向レポート>家電・AV機器業界]

一方、そのような状況下でも、近年は「ハイレゾオーディオ」機器市場が急拡大しつつあり、2015年上半期の販売金額は前年同期比で1.4倍、前々年同期比では3.8倍を記録するほどであり、市場を牽引しています。対応プレイヤーやスマートフォン、コンテンツも拡充を続け、今後もハイレゾ需要の拡大が見込まれます。

また、音楽ライブ市場は絶好調で毎年右肩上がりの状況であり、決して暗いニュースばかりではありません。

成熟した国内市場で、海外・国内企業との競争を勝ち抜くには、独自の機能/独創的な「デザイン」を生み出して、他社と差別化を図ることが大変有効です。

我が国の意匠登録出願件数が最も多いのが「電子情報入出力機器」(意匠分類H7)であり、
その中でも、本項では特に、意匠分類H7-200に属する「音響情報入出力機器」を取り扱います。

いわゆるオーディオ機器等は意匠分類コード:H7-200以下に分類されており、
例えば、以下の物品を登録することが可能です。

  • H7-211  :ラジオ受信機
  • H7-220  :マイクロホン等
  • H7-2322  :スピーカーボックス
  • H7-23291 :スピーカー
  • H7-233  :ヘッドホン等
  • H7-2392  :ヘッドホン用収納ケース,イヤホン用収納ケース等
    ※ギター等の楽器は、意匠分類コード:E以下に分類されています。

”HARAKENZO more では、我が国のオーディオ機器メーカーの皆様の知財活動を応援したいと考え、このようなページを設けました。当記事が、意匠出願を考えていらっしゃる方々のお力となれれば幸いです。

(2)オーディオ機器の意匠

     オーディオ機器は音を嗜むのが主な目的ですが、デザインが優れていることによって、顧客を惹きつけ、目に留まりやすく・手に取ってもらいやすくなります。

 

     一昔前と異なり、企業間の技術の差が小さくなり、業界への参入障壁も下がりつつある現状、競争を優位に進めるためには、独自の機能/独創的な「デザイン」を生み出し、他社と差別化を図ることが大変有効です。
     高級感・カッコよさを演出したり、タフさをアピールしたりもできますし、デザインは、それにより使用している人の気分や満足感を変化させうる重要な要素といえます。
     しかしながら、デザインというのは目に見える「外観的特徴」ですから、特許のように一見して模倣が困難なものと違い、パッと見ただけで容易にデザインをマネされる可能性が多くあり、これがデザインの弱いところでもあります。

そのようなデザインを保護して、他人にマネされないよう独占的に使用できる権利が「意匠権」です。

音響機器メーカーが取得している意匠の一例を以下に紹介致します。

★Headphones

【意匠権者】SENNHEISER ELECTRONIC GMBH & CO. KG
(意匠登録番号 第1567289号(国際登録番号 DM/090028))

★スピーカーボックス

【意匠権者】オンキヨー株式会社
(意匠登録番号 第1276049号)

★スピーカー

【意匠権者】バング・アンド・オルフセン・アー・エス
(意匠登録番号 第1504692号)

★ラジオ受信機

【意匠権者】マックス株式会社
(意匠登録番号 第1511980号)

★車載用スピーカー

【意匠権者】日本ビクター株式会社
(意匠登録番号 第1268989号)

(3)機器全体だけでなく、その「一部分」についても権利保護できます

意匠は物品全体について権利保護される制度です。しかしながら、ある一部分に特徴があるオーディオ機器の意匠に対し、第三者に「その特徴部分だけ模倣されたうえで機器全体として似ていないデザイン」を使用された場合には、その第三者に対して意匠権の効力は及びません。

このような事態を回避するために、オーディオ機器全体を意匠登録するだけでなく、一部のデザインを「部分意匠」として登録することができます。すなわち、ある部分に特徴をもたせた機器の、その部分だけに限定して意匠権を得ることが出来るのです。

また、部分意匠により、“特徴的な部分を共通に使用した様々なバリエーション/シリーズ”のオーディオ機器を1つの出願で保護することが可能となります。

オーディオ機器メーカーが取得している部分意匠の一例を以下に紹介致します

★イヤホン ※実線部分が部分意匠の権利範囲です。

【意匠権者】シュアー アクイジッション ホールディングス インコーポレイテッド(SHURE ACQUISITION HOLDINGS,INC.)
(意匠登録番号 第1291225号)

★スピーカー ※実線部分が部分意匠の権利範囲です。

【意匠権者】ローランド株式会社
(意匠登録番号 第1291225号)

★マイクロホン ※実線部分が部分意匠の権利範囲です。

【意匠権者】ギブソン ブランズ インコーポレイテッド
(意匠登録番号 第1538697号)

(4)コンポ等の「オーディオ機器セット」も、組物の意匠でまとめて登録可能です。

意匠権は、原則「1物品」についての「1デザイン」を保護する権利です。

例えば、「物品:マイクロホン」で意匠権を持っている場合、その「マイクロホン」の類似範囲にのみ権利が及びます。 (登録意匠と類似のデザインを非類似物品に使用し、非類似物品でも意匠権の保護を求める場合は、その物品でも意匠登録を受ける必要があります。)

しかしながら、デザインが全体的に統一されていて、使用時も同時に使用されるセットの物品群は、通常の取引において、一組で取り扱われるものがございます。

そのようなもののうち、二以上の物品から構成されるものであっても、それらの構成物品等が同時に使用され、全体として統一があるときは、組物の意匠として1出願でまとめて登録することが可能です。

本項に関連するものですと、例えば、以下のものが組物の意匠として登録可能です。

  • 「一組のオーディオ機器セット」
    (構成物品:チューナー、アンプ、スピーカー) ※チューナーとアンプ一体型も含む
  • 「一組の車載用オーディオ機器セット」
    (構成物品:車載用チューナー、車載用アンプ、スピーカーボックス) ※車載用チューナーと車載用アンプ一体型も含む
  • 「一組のスピーカーボックスセット」
    (構成物品:スピーカーボックス(2以上))

※ただし、これらの組物の構成品の全体で、色が統一されている・形態/印象が関連している・共通の絵柄/模様が描かれているなど、「組物全体として統一されたデザイン」が必須要件です。

※二以上の物品等の「部分」について意匠登録を受けようとする場合にも、組物の意匠として意匠登録を受けることができます。

★一組のオーディオ機器セット

【意匠権者】日本ビクター株式会社
(意匠登録番号 第1410522号)

(5)海外で模倣品が出回ってからでは遅い

あるオーディオ機器の人気が出ると、外国、特に東アジアから模倣品が国内に流入し、出回ることがあります。また、現地で意匠や商標の出願が済まされてしまっていることも多いものです。

そういった事態に直面した後で、やっと海外で権利保護を図ろうとしても大変厳しい状況になりますので、国内での意匠権取得と同時に海外諸国でも意匠出願を行うことを強くお勧め致します。海外での展開を考える際にも、ぜひ、お気軽に当所にご相談ください。

欧州・米国などの知財先進国をはじめ、近年では東アジア、東南アジア諸国、その他各国において意匠の取扱は様々でございます。意匠登録を行う方法にも、各国において必要なノウハウが存在しますので、この点はお気軽にご相談頂ければ幸いです。

●また、2015年より我が国もハーグ協定に加入したことから、国際意匠登録制度の利用が可能となったため、手続面・費用面共に負担を軽くすることができます。
国際意匠登録制度について詳しくはこちらをご覧ください。

(6)”HARAKENZO more ” はオーディオ機器メーカーの皆様を応援します

オーディオ機器の業界では、独自のデザインで他社との差別化を図ることが戦略上重要ですが、一方、知的財産で適切に保護されていないと、そのデザインをマネした海賊版が簡単に流通してしまい、水際対策に追われることになってしまいます。

※本項に直接関係はございませんが、FenderやGibsonギターの模倣品問題で、知財の水際対策が難航したことは記憶に新しい方も多いかと存じます。

そのため、皆様が知的財産権の問題を意識せざるを得ない状況に直面することもあろうかと思います。”HARAKENZO more ” では、オーディオ機器メーカーの皆様の知的財産保護に全力を尽くす体制を整えております。どうぞお気軽にご相談ください。

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意匠登録や意匠トラブルの解決にあたっては、専門家の判断が欠かせません。
意匠のことでお悩みがありましたら、いつでも知的財産のプロフェッショナル集団であるHARAKENZO事務所にご相談いただけます。