意匠法大幅改正 ~これからのデザイン経営に向けて~

2019年5月29日

 

平成31年3月1日に閣議決定された「特許法等の一部を改正する法律」は、令和元年5月10日に可決・成立し、5月17日に法律第3号として公布されました。このうち、意匠法改正に係る内容は、特許庁が提言する「デザイン経営」(デザインをブランド力及びイノベーション力向上のための重要な経営資源として活用する経営)を推進するために、意匠法におけるデザイン保護の拡大と手続の改善を図ろうとするものです。以下に、改正意匠法の内容についてご紹介します。

※なお、上記法律の施行日は公布日から1年以内となっております。

 

 

1. 画像デザインの保護対象の拡大

(1)以下の画像を保護対象に加えることになりました。ただし、機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限られます。なお、いわゆる壁紙等の装飾的な画像やコンテンツは機器等の付加価値を直接高めるものではないため、保護対象外です。

①物品に記録されていない画像

例)ネットワークによって提供される画像

(出典)特許庁 第6回 意匠制度小委員会 資料1

②物品以外に表示される画像

例)壁や人体に投影される画像、VR上で表示される画像等

(出典)特許庁 第6回 意匠制度小委員会 資料1

※但し、画像意匠の出願様式や審査運用はなお検討中です。

 

 

(2)画像をサーバーにアップロードする行為や、ネットワークを通じて画像を含むソフトウェアを提供する行為やその申出をする行為も、意匠の実施行為となりました。

 

※意匠に係る画像を記録した記録媒体又は内蔵する機器の譲渡等も実施行為となります。

  • 改正の背景

    現行法では、画像デザインの保護対象は物品に記録された画像である事や、物品に表示される画像であること等が要件になっている等、保護対象は欧米に比べて厳格に規定されており、欧米で登録が可能なアイコン、壁紙、物品に記録されていない画像等は登録を受けることができません。現状では近年特に急速に重要性が増しているGUI等の画像デザインへの投資が十分回収できないため、日本企業のデザインへの投資インセンティブが生まれず、デザインに多額の投資をする欧米の企業に負けてしまい国際競争力を保てないという負のスパイラルに陥っているという指摘もあります。また、意匠の侵害行為は、意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸し渡し、輸出、輸入に限られています。これでは、画像を含むソフトウェアを模倣してインターネット上で提供する行為については侵害行為とならないため、GUIの保護が十分でないという指摘がありました。

    欧州でのGUI登録例
    登録番号:004634517-0003 (Apple Inc.)

 

 

2. 空間デザインの保護

建築物の外観・内装のデザインが、新たに意匠法の保護対象となりました。

※内装デザイン、建築物について、その内装全体で統一的な美感を起こさせる場合に登録が認められます。

※保護拡大により、意匠に係る建築物の建築、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為が意匠の実施行為に追加されました。

 

  • 建設物の外観・内装デザイン

    例)内装デザインによるブランド構築(auショップ池袋西口駅前店)

    特徴的な形状のテーブルやカウンター等を用い、それらの特徴が際立つ形で、全体的にオレンジと白の2色のみによる効果的な色彩を施し、統一感を実現している点が特徴。

    (出典)JPO:特許庁等の一部を改正する法律の概要(参考資料)

     

  • 改正の背景

    現行法では意匠法による保護対象は「有体物である動産」に限られ、建築物(不動産)は保護対象外となっています。また、店舗やオフィス等の内装デザインは一意匠一出願の要件を満たさず登録を受けることができません。建築物や店舗の内装等を保護対象とする欧米に比べて日本での保護は十分でないという問題があります。また、近年、特徴的な空間デザインがブランド差別化の要素となってきています。

    日本でも東京地方裁判所により、コメダ珈琲店の店舗外観と類似するとして不正競争防止法を根拠に店舗用建物の使用差止め等に係る仮処分命令が発令(最終的には和解)されるなど、保護のニーズが高まっています。

    (平成27年(ヨ)第22042号)

    (出典)http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1428023

 

 

3. 関連意匠制度の拡充

以下の法改正がなされました。

①関連意匠の出願可能期間が、「本意匠の公報発行日前」から、「本意匠の出願日から10年以内」に延長。

②関連意匠にのみ類似する関連意匠の登録を認める。

③関連意匠の存続期間を基礎意匠(一群のなかの最先の意匠)と合わせる。

 

※但し、関連意匠の設定登録の際に、本意匠が既に消滅、無効審決確定又は放棄されているときは、関連意匠の登録が認められません。

※本意匠に類似する意匠(関連意匠A)にのみ類似する意匠(関連意匠B)の場合は本意匠が消滅していても、関連意匠Aが存続していれば登録が認められます。

 

(出典)平成31年2月産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会資料

 

  • 改正の背景

    市場での売れ行きを考慮して追加デザインが決定されていく実情を反映し、平成18年の改正により関連意匠の出願日可能期間が本意匠の公報発行日前に延長されました。しかし、公報発行後に創作された追加のデザインについては依然として保護を受けることができませんでした。近年は自動車やスマートフォンなどで複数の製品群を一貫したデザインコンセプトに基づきデザインする手法が主流となりつつあり、日本においてもそのような手法に基づくデザインに対して十分な保護が受けられるよう、関連意匠出願の制約を緩和しました。

    また、現行制度では、関連意匠にのみ類似する意匠についても保護を受けることができず、関連意匠の類似範囲で保護されていると解釈するしかありませんでした。改正により、このように事後的に生まれたデザインに対する保護拡大が期待されます。但し、一連の意匠に対する保護期間が実質的に延長されてしまう等、懸念される事項もあり、関連意匠の存続期間を基礎意匠と合わせることで、意匠権者を過度に保護することがないよう措置が取られました。

 

 

4. 意匠権の存続期間の変更

意匠権の存続期間が「登録日から20年」から「出願日から25年」に変更されました。

  • 改正の背景

    平成18年の改正により意匠権の存続期間は15年から20年に延長されましたが、近年、15年維持されている意匠登録件数が増加傾向にあり、平成28年では15年目現存率は22%となっています。ロングライフデザインとよばれる優良デザインは、長期にわたり付加価値の源泉となり、ブランド価値構築の重要な資源となっています。デザインによるブランド経営が進んでいる欧州では最長25年となっており、日本においても存続期間が延長されました。

 

 

5. 複数意匠一括出願の導入

法改正により複数意匠一括出願が可能となりました。

ただし、一括出願に含める意匠の上限数、一括出願の範囲については、現時点では不明です。

また、以下の方針の下、特許法と異なり、1出願に対し複数の意匠権、すなわち、複数の登録番号の付与も予想されますが、現時点では不明です。

①一つの意匠ごとに一つの意匠権を発生させるという原則は維持する

②実体審査や意匠登録については現行制度と同じく意匠ごとに行うこととすべきである

  • 改正の背景

    現行制度では、組物の意匠以外は一つの出願に複数の意匠を含めることは認められていません。これに対し、主要国(米欧中韓)では要件は異なりますが複数意匠一括出願が認められています。また、日本が加盟しているハーグ協定においても複数意匠一出願が認められています。そこで、ユーザー利便性向上の観点から見直しがなされました。

 

 

6. 物品区分表の見直しについて

省令で定める物品区分表に記載されている物品の区分と同程度の区分を記載していない出願については、拒絶理由の対象とされていました。この点について、権利化の遅延につながることから、直ちに拒絶理由としないとする法改正がなされました。

 

 

7. その他(間接侵害規定)

法改正により、意匠権を侵害する製品の完成品を構成する部品(非専用品)の製造・譲渡・輸入等の行為について、悪意(侵害に関わっていることを知っている)の場合には、取り締まれるようになりました。既に施行されている特許法第 101 条第2 号及び第 5 号に合せたものです。

  • 改正の背景

    従来の間接侵害規定では、専用品しか取り締まれませんでした。しかし、近年、意匠権を侵害する製品の完成品を構成部品(非専用品)に分割して輸入するなど、輸入手口が巧妙になっていました。このため、改正の必要性が高まっておりました。

    例)意匠登録を受けた美容用ローラー

    改正後

    侵害品を構成するボール部とハンドル部を分割して製造・輸入等した場合、一定の要件のもとで、意匠権侵害とみなす

    (参考)特許庁 第6回 意匠制度小委員会 資料1
        平成31年2月産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会資料

 

 

ページ上部へ